
新築やリノベーションとちがって、住まいそのものを自由に変えられない「賃貸」。
壁紙の色や床の素材、または間取りの制約など、いくつもの条件に囲まれて、ふと部屋づくりに迷ってしまいます。私自身も、建具の色と好みの家具とを、どのように調和させたらいいのか悩んでしまうことがしばしば。
そんな賃貸での部屋づくりのヒントを探していたところ、インテリアスタイリスト岩佐知布由 さんが、都内の賃貸物件に引越しされたとお聞きしました。
これまでも当店の記事で、DIYや小さな工夫を凝らしながら心地よく住みなすヒントをお話しくださっていた岩佐さん。新居は、和室のある間取りだったり、ダークグレーの壁紙が貼られていたりするそう。そんな住まいの特徴を、どのように受け止め、自分らしい空間へと整えてきたのでしょうか。
前編では、賃貸の制約を活かした、部屋づくりの工夫について伺います。
図面になかった庭に、一目惚れして

気持ちのいい緑道をたどった静かな住宅街の奥に、岩佐さんの住まいはありました。
ゆったりとしたリビングの壁一面に大きな窓が。奥には広々としたお庭が広がり、都内の賃貸でもこんなふうに身近に緑を感じられる住まいがあるんだ、と清々しい気持ちになりました。
岩佐さん:
「結婚を機に、2人で暮らせる家を探していたんです。いくつか内見する中で、『こんな部屋もありますよ』と紹介してもらったのが、ここでした。
家を探すときは、『日当たり・風通し・広さ』の3つを大事にしています。ここも、広さに惹かれて足を運んでみたんですが、図面には描かれていなかったお庭があって。リビングから見える一面の緑に、一目惚れしてしまいました。
前の家は車通りのある場所だったので、奥まったところにあるこの家の静けさも、すごく気に入っているんです」
20代以来の、「和室」のある暮らし

77㎡の2LDKへ住まいを移された岩佐さん。今回の家では、リビングに隣接する和室を寝室として使われています。
和室のある住まいも少なくなってきた今、洋室での暮らしに慣れてしまった私には、和室をどんなふうに整えたら心地よくなるのか、どこか難しく感じてしまっていました。それが岩佐さんのお住まいでは、旅館のような落ち着いた雰囲気の寝室に。
岩佐さん:
「20代前半の頃、初めて一人暮らしをした部屋が6畳の和室だったので、もともと馴染みがあるんです。
久しぶりにこうして暮らしてみて、障子を通して入る光の柔らかさや、畳の心地よさなど、改めて和室の良さを感じています」

岩佐さん:
「ダークグレーの壁紙は、入居当初からのもの。こんなふうに、もともと色のついた壁紙が貼られている場所が、この家にはいくつかあるんですよ。
和室のために新しく買い足したものは、ほとんどないんじゃないかな。
隅にある古家具の箪笥も、枕元の古い裁ち台も、前の家から持ってきたものです。以前の寝室も少し暗めの空間で、日本らしいものを中心にまとめていたので、どれもこの和室にすっと馴染んでくれました」
▲室内には手仕事による金箔のアート(写真左)や、枕カバーなどの収納につかっている魚籠(写真右端)もしつらえの一部に。「和室には、作家ものがよく合う気がします」と岩佐さん
和室の落ち着いた雰囲気を活かすために、空間づくりにも工夫がありました。
岩佐さん:
「床座の暮らしだからこそ、家具やアートをあえて低めにまとめて、空間を整えるようにしたんです。
夫が和室に合わせて低いベッドをDIYしてくれたこともあって、部屋いっぱいにベッドを置いていても広々とした印象になったかなと思います。
あとは、和室だけでなく、リビングにも日本の要素を取り入れています。例えば、天童木工のダイニングテーブル。こうした日本の家具を取り入れることで、和と洋の空間がゆるやかにつながるように、と意識したところはあるかもしれません」

足りないところには、ちょっぴり手を加えて

空間に合わせたというお手製のベッドフレームに驚きましたが、岩佐さん自身も、DIYはお手のもの。
これまでもInstagramで「工夫シリーズ」と題して、住まいにちょっぴり手を加えながら、心地よく暮らすためのアイデアを紹介してきました。
新しい家でも、暮らしのなかで生まれた小さな困りごとを、DIYで解決しているそうです。
岩佐さん:
「ここに越してきて手を加えたものといえば、キッチンのゴミ箱ですね。
これまで使っていた食器棚では収納が足りなくなって、新しくレンジ台を迎えたんです。そうしたら、今度はゴミ箱の置き場所に困ってしまって。
キッチンの入口にしか置ける場所がなかったので、そこに収まるサイズで、せっかくならと45Lのゴミ袋が入る高さのあるものを手作りしました」
▲壁にぴったり沿うサイズ。脇のデッドスペースに作り足したのは、ペットボトル専用のゴミ箱だそう

暮らしの不便を解消するためのDIYだけでなく、壁面の飾り方にも、岩佐さんらしい工夫が見られます。キッチンの壁には、以前の記事でも紹介いただいた、マスキングテープとクリップを使って飾る工夫も。
岩佐さん:
「写真やポストカードは、『この辺の壁に、何か欲しいよね』というような感じで、気づいたら夫が飾っていたりもして。マステとクリップで飾ることもあれば、額装することもあります。
額縁も、部屋や好みに合わせて少し手を加えてみたり。洗面所に飾っているアレック・ソスのポストカードを入れた額縁は、ずっと前にフライングタイガーで購入したものです。もともとは白木のフレームだったのですが、ペンキを塗って、好みのテイストに仕上げました」
▲岩佐さん「建具のミドルブラウンに合わせて、ドアの取っ手に革紐を巻いてみました」
賃貸の「箱」が出発点

選べない壁紙や建具の色、和室という間取り。岩佐さんは、そうした条件のある「賃貸での部屋づくり」をどう受け止めているのでしょう。
岩佐さん:
「賃貸の部屋は、やはり『箱』ありきだと思うんです。
まずは部屋そのものを出発点にして、そこにどんなインテリアを合わせようか、どこに家具を足そうか、と考えていく。そんなふうに、もともとの空間に合わせながら整えているような気がします。
でも、そうやって暮らしていくうちに、『もっとこうしたい』という部分も出てきますよね。ライフステージの変化によって、暮らし方もだいぶ変わりますし」

「そんなときにちょっとDIYしてみるというのが、自分にとっては楽しいんです。お金をかけずに、必要なところに少し手を加えてみる。
もちろん、インテリアの仕事から学んだことがあるから、気軽にできるというのもあるかもしれません。でも、スペシャリストのようにDIYしようとは思っていなくて。
これが必要だと思ったときに、ちょっと手を入れて、よくしていく。そんな『やりすぎないDIY』を、さりげなく空間に溶け込ませられたらと思っています」
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続く後編では、暮らしの変化に合わせて少しずつ部屋を更新していく岩佐さんの、ものを “ 巡らせる ” 暮らし方を紹介します。
【写真】井手勇貴


岩佐知布由
インテリアスタイリスト。インテリアデザインを学んだのち、会社員やアパレル販売等を経て、フリーのインテリアスタイリストに師事。2018年に独立し、雑誌、広告、カタログなどでインテリアや雑貨、暮らしに関わること全般のスタイリングや、ショップのディスプレイ、住宅などの空間コーディネートを行う。