しなやかな人
【しなやかな人】後編:50代で体の変化と向き合い、おしゃれも楽しみつづけるために

【しなやかな人】後編:50代で体の変化と向き合い、おしゃれも楽しみつづけるために

しなやかで、笑顔がとってもチャーミングな「Ecru et pousse(エクリュエプゥス)」店主のまつむらゆきさんにお話を伺っている今回の特集。

前編では、35歳のときに小さな雑貨屋さんをはじめて、移転を重ねながら、洋服も扱うセレクトショップになるまでのお話を伺いました。

つづく後編では、はじめての大病とどう向き合い、乗り越えたかについて詳しく伺います。

前編をよむ

50代で、はじめて大きな病気をして

新しい店舗への引越しがようやく落ち着いた頃に、体調に違和感を覚えたゆきさん。病院に行くと、すぐにでも手術と投薬治療が必要な病気であることが判明しました。

ゆきさん:
「告知されたときは、よくドラマで見るような動揺や悲しみがわいてくる感じはなくて、ただ受け止めるしかないと思いました。とはいえ生存率とか数字的なことを調べ出したら、どうしても不安はわいてくるので、あえて数字は見ないようにしました。

家族や近しい友人たちが『1人にしないからね』と毎日のように家に遊びに来てくれて、支えてくれたからこそ、そこまで不安にならずに過ごせたのかもしれません。担当医がすごく信頼できる方だったのも大きくて。言われたことを守りながら手術に備えて、家族や友だちといつもみたいにおしゃべりしながら闘病期間も過ごしました」

ゆきさん:
「投薬治療をしている間は免疫力が落ちてしまうので、一人で部屋にこもって過ごさなければいけないのですが、その間はパートナーや近所に住む友人が交代で店番をして、私がいなくてもお店を開きつづけてくれました。本当に人に恵まれていて、みんなのおかげで今ここにいることができているんだなと感じています」


人生初のベリーショート

▲「Ecru et pousse」のInstagram(@ecru_et_pousse)投稿より

ロングヘアーがトレードマークのような印象もあったゆきさん。治療の副作用で髪の毛が抜けてしまうことがわかり、髪をばっさりショートに。髪が生え変わってからは、人生初のベリーショートを楽しんでいるといいます。

ゆきさん:
「ずっとロングヘアで、髪の量が多くて硬い毛質だったんです。ベリーショートに憧れたこともあったけれど、私の毛質だと無理かなと諦めていました。

髪が抜けたあとは毛質も変化して、ふんわり柔らかくて、クルっとカールした髪の毛が生えてきて、憧れだったベリーショートが思わぬ形で叶いました。相談していた美容師さんから、脱毛後は毛質が変化すると聞いてはいたのですが。まるで赤ちゃんの髪の毛みたいな柔らかさで、なんだか第二の人生が始まったような気持ちで、いまは初めてのベリーショートを楽しんでいます」


変化を受け止める、おしゃれアイテムも誕生

病気は悪いことばかりではなく、それをきっかけに誕生した、新しいファッションアイテムもあるのだとか。

ゆきさん:
「治療中はウィッグも買ってみたのですが、髪の毛をカバーするのにちょうどいいアイテムがあまりないことを実感しました。それで、兼ねてからお取引のある『R&D.M.Co- 』のデザイナーさんに相談して。お店でも人気のワイルドベリー柄の生地で、ストールにも、ヘアターバンにもなるボレロを作ってもらいました。

Instagramで入退院のご報告や、この商品のことも投稿していたら、『私も悩んでいました』と同じ境遇の方からたくさんのメッセージをいただいて。私も含めて、闘病中もふだん通りのおしゃれを楽しみたい人はたくさんいるんだなと感じました」


年齢に合わせた、おしゃれのアップデート

ヘアスタイルの変化や年齢を重ねたことで、おしゃれにも変化が現れているのだとか。

ゆきさん:
「髪型の変化からか、最近はちょっとボーイッシュな装いをすることも。髪が生え変わってはじめてヘアカラーをしたこともあり、今は黒い服とのコントラストがしっくりくるように。また少しずつ髪色や髪型も楽しみたいです。

今日着ているのはリネン100%のコンビネゾンで、ウエストの紐をきゅっと絞ってブラウジングしています。

年齢と共に首まわりが気になるようになって、今日は「aiueaoui」のスカーフを添えてみました。ハンドステッチがアクセントになるのでお気に入りです」

ゆきさん:
「ネックレスをすることも増えました。あえて首元に注目を集めてしまうのではと思われがちですが、シンプルに顔まわりを明るくしてくれるなと感じています」

若い頃は日焼けをしたくないと長袖を着ることが多かったそう。けれどもここ最近は、猛暑が続いていることや年齢を重ねたこともあって、涼しさを最優先に考えるようになったのだとか。

ゆきさん:
「腕を出したくない気持ちより、涼しく過ごしたい気持ちの方が優ってきた感じです。年齢と共により心地よい素材のもの、涼しいものを手に取るようになりました。

今まで着ていたものがしっくりこないと感じることも増えました。もともとフリルのある服が好きで色々持っているのですが甘すぎるような気がして。落ち感があるフリルだと大人っぽさもあってちょうどいいなと選んでみたり」

ゆきさん:
「クローゼットには、白、黒、グレー、ベージュ、ブラウンの服しかなかったけれど、あまり着たことがない色柄の服にトライすると、まだまだ新しい発見があるなとわかったり。いまの年齢や気分に合うコーディネートをいろいろ試しながら、新しいおしゃれにも挑戦してみたいです」


そろそろ暮らしを小さくした方がいい?

▲店内には、みどりさんがお庭で育てた花がいつも飾ってある

今はすっかり前向きな気持ちで過ごせていますが、手術の後しばらくは、なかなか意欲がわかない時期もあったそう。

ゆきさん:
「50代で病気をして、これからは新しいことを始めるよりは、お店も暮らしも小さくしていくことを考えた方がいいのかなと思っていました。気持ちが内側に向いたまま、なかなか外に向かなくて。

そんなとき隣に住む大家さんのみどりさんが、朝から元気に草取りをして、庭でかわいいお花を育てたり、畑の野菜で作ったおいしい料理をお裾分けしてくれたり、毎日の暮らしを楽しんでいる様子を見ていたら『まだまだ人生を楽しまないと』って、自然と思えるようになったんです。

みどりさんは現在81歳、私よりも30歳近く年上で、病気も抱えているけれど、すごく楽しそう。最近は、お店に飾る花もみどりさんがお庭で育てたもので、本当の親子ではないけれど、どこか家族みたいなお付き合いをさせてもらっています」


50代で挑戦してみたいこと

今は病気のことが夢だったのかなと思えるくらいに、普通の生活ができていることがありがたいと話すゆきさん。最後に、50代のこれからのことについて教えてもらいました。

ゆきさん:
「雑貨屋として始めたときは、お客さまが気軽に1つ買って帰れるようなアイテムもあったのですが、洋服だとそうもいかないこともあるのかなと感じていて。また少しずつ雑貨のボリュームも増やしていけたらなと思っています。

いつか、お店に大好きな古物や雑貨も並べて、お茶やお菓子も楽しんでもらえるような、衣食住を楽しめる場所にしていきたいです。ここで過ごす時間が少しでも笑顔につながる、そんなお店になれたらいいなと思っています」

お店やInstagramの華やかな印象からは想像もつかないような、たくさんの困難を受け入れながら、どんなときも前を向いて歩いてきたゆきさん。物事を明るく捉えて、流れに身を任せつつも、自分らしく進む芯の強さを感じました。願わくば、私もゆきさんのように流れに身を任せる勇気としなやかさを携えて、50代を迎えらえたらいいなと思います。


photo&movie:穴見春樹


※2026年7月の熊本地震で、まつむらさんのお店やご自宅にも被害がありましたが、現在は営業を再開されています。「いつもの日常に戻ることは、決して簡単なことではないけれど、それぞれの場所で、それぞれのペースで、今できることを始めています。お店やイベントを再開することが、今を頑張っている誰かにとって、ほんの少しでも楽しみになったり、気持ちを動かすきっかけになったら嬉しいです」(まつむらゆき)



もくじ

まつむらゆき

「Ecru et pousse」店主。35歳のときに小さな雑貨店を開いて、「R&D.M.Co-」の服を扱ったことをきっかけに服とファッション小物の扱いが増えセレクトショップに。いつかお店に大好きな古物や雑貨も並べて、お茶やお菓子も出して、衣食住たのしめる場所にしたい。

*9/5(土)6(日)と山梨の「THE DEARGRAUND」(山梨県富士吉田市下吉田6丁目18-46 2F.3F)にて、ポップアップを開催予定

Instagram:@ecru_et_pousse